『おばけになりたい!保健室に逃げこむ子どもたち』
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田村文 (河出書房新社) |
読み終えて、この一冊が創作された物語でなく、実際の出来事なのだと思い至ったとき戦慄を覚えた。
子どもたちが、日々の暮しや学校という集団のなかで、どのように追い詰められ傷ついているのかが、具体的な事実によって読者の前に投げ出されている。
時間をかけた丹念な取材を通して、学校や家庭で子どもたちが直面しているさまざまな困難を掘り起こし見つめ直して、伴走するように著者は書いているのだろう。
学校で子どもに関わる事件や事故が起きたとき、殺到するマスコミの取材のなかで見えなくなってしまうものもあるのではないか。そう感じた著者は、取材の過程で知り合った養護教諭の竹田美紀、家庭科教諭の中島千恵らの目を通して、子どもたちやその家族、学校や教師たちの日常を記録している。
第一章から五章迄の見出しは、「金髪の少女」「保健室登校」「大人は嘘つき」「保健室の外で」「施設漂流」となっている。
あたりまえであるべき日常に疎外され、次第に追い詰められていく子どもや周辺の大人たち。さまざまな事情を抱えながら(それも殆んど大人の都合に振り回されて)保健室に逃げこむ子どもたち。
「おばけになりたい」という悲鳴は、存在そのものを受け止められていない証しではないのだろうか。
ストレスにさらされる現代社会にあって、その歪みは弱い存在である子どもにも容赦なくのしかかっているのだ。
そんな彼ら彼女らをなんとか支えようと、真剣に向き合っている大人も少なからずいる。
著者は、そんな大人たちの姿に希望を託しているのだろう。
何事にも無関心であってはいけない、と、背中を押された一冊となった。
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